私は今、ブレインファームという会社で、サステナビリティ経営推進支援のために、EcoVadis受審支援、GHG排出量の算定支援、国連グローバルコンパクト・TCFDへの対応支援 (シナリオ分析/リスク・機会分析)などを行っています。
企業のサステナビリティ(CSR)評価機関である、EcoVadis(エコバディス)は、フランスのパリ で誕生した、企業のサステナビリティ(持続可能性)やCSR(企業の社会的責任)の取り組みを評価・可視化する、世界最大級の国際的な評価プラットフォームです。EcoVadisは「環境」「労働と人権」「倫理」「持続可能な調達」の4つのテーマを総合的に評価します。
EcoVadisの日本企業の2020年の平均スコアは46.7で、北米や、チェコ共和国(47.5)など一部のEU諸国と同水準でした。とはいえ、フィンランド(55.9)、スウェーデン(55.4)、フランス(54.3)など、サステナビリティ分野で世界をリードする国々にはまだ遠く及びません。
EcoVadisによる評価スコアの国/地域別傾向:2015年~2020年
日本企業は2015年以降、サステナビリティへの取り組みに関して明らかな進歩を遂げてきました。2015年と2020年のどちらの年度でも評価を受けた企業のうち、43.4%がスコアを大幅に向上させ、EcoVadisのパフォーマンス評価において以前よりも上位のカテゴリーに移行しました。しかし、EUや北欧の企業と比較すると、日本企業がサステナビリティに関する問題に取り組む点でこれ以上後れを取ることなく、最終的に差を縮めるには、努力すべき余地がかなり残っています。
「環境」のテーマでは、2020年の評価でOECD平均のパフォーマンスを上回り、EU平均にあとわずかのところまで迫っていますが、「労働と人権」テーマに関する日本企業の平均的なパフォーマンスは、多くのOECD諸国の企業に後れを取っています。このテーマにおける日本企業の平均スコアはOECD平均(54)を7ポイント下回っており、改善の余地が大きいことがわかります。
日本には、より現代的な人権・労働問題として、職場でのハラスメント、特に女性に対するセクシャルハラスメントと差別などが存在します。日本社会では、多くの女性がこの種の障壁に直面しています。このことは、2021年のGlobal Gender Gap Reportにおいて、日本が156か国中120位という散々な結果となり、G7内では最下位であったことからも明らかです。
自然保護(エコ)から始まり、将来世代を見据えた社会のあり方(サステナビリティ)へと広がってゆく段階で、国政的な評価では苦戦をしているのが日本の現状です。
私がEcoVadisの受審コンサルティングを行って、まず初めに違和感を覚えたことがあります。
世界で広く利用されている2大国際プラットフォームのフランス発祥EcoVadis、イギリス発祥CDPでは、あたりまえですが評価基準は英語で体系化され、日本文化になじまないポイントが多々あります。回答の規定自体が文の組み立て方や主語を省略しがちな日本語と大きく異なり、受審する日本企業では例外なく、どう答えたらいいか分からないといった担当者が多くいらっしゃいます。
そのようなクライアントにEcoVadisが承認した事例を踏まえながら、ある種の通訳のように解決策を提示するのが、私の業務となっています。
もう一つの視点から日本企業の変遷を見ていきます。
世界経済フォーラム(通称ダボス会議)のひとつの目玉は、サステナビリティの観点で世界各国の企業を評価する“Global 100 Most Sustainable Corporations in the World” (Global 100 Index)のセッションです。ここで発表された結果は、カナダの出版社Corporate Knights社によって「世界で最も持続可能な企業100社」(ランキング)として発表されます。
持続可能な企業ランキングではこのような結果ですが、100年企業が日本に少ないわけではありません。
実は創業100年超の企業は国内に4万5,000社以上存在し、世界における業歴100年以上の企業の約5割を占める(図表)。創業200年超の企業では、その割合は世界全体の6割以上に達するらしいのです。
この矛盾するようなデータをどう見たらいいのでしょうか?
実際に日本の100年企業では、短期的な利益追求よりも長期的利益と事業の永続が重視される、日本的な経営風土が挙げられます。欧米では資本効率が重視され、伝統ある企業が合併や買収で姿を消すことも多い。一方「日本的経営」では、企業が家族のような共同体として捉えられ、長く続く老舗が尊ばれる傾向があります。
所在企業に占める100年経営企業の比率が最も高い都道府県は、「京都府」(5.2%、1,561社)です。京都は平安時代以降、長らく日本の中心地であり、宗教施設や伝統工芸に関連する長寿企業が多い。また太平洋戦争時における空襲被害が他の大都市に比べて少なかったことも、それらの存続につながりました。京都の代表的繁華街である祇園や清水焼の窯元の集積がある京都市東山区は、全国で100年経営企業比率が最も高い市区町村です。
京都に次いで100年経営企業比率が高かったのは、「山形県」(5.0%、838 社)、「新潟県」(4.9%、1,527社)、「福井県」(4.5%、643 社)。
これらの地域は江戸時代から、北前船の寄港地として栄えました。新潟県は燕・三条地域の金物、中越地域の繊維産業など、古くから地場産業が盛ん。織物や桐箪笥などで知られる新潟県加茂市は、市区町村別の100年経営企業比率2位となっています。福井県は漆器、和紙などが伝統工芸品として有名です。
京都、山形、新潟はいわゆる「酒どころ」として、歴史ある酒蔵が集積していて、そのことも、100年経営企業比率の高さにつながっているのでしょう。
ふと、日本は鎖国から開国を経て、江戸時代から明治時代の文明開化へかけて政治や生活習慣が西洋風に大きく変わった歴史を思い浮かべました。
どちらが良いというわけではないのですが、本来、自給自足、もったいないという持続可能な暮らしを営んできた日本人が時代の流れを言い訳にして、自身のDNAを忘れてしまったように思えたのです。
狭い国土に多くの民が暮らす日本は、人口密度が高く、地震、津波、台風、自然災害による飢饉も多く、隣人と助け合わなければ生き延びることさえ難しい環境です。
グローバルでいかにイニチアチブを取るかの歴史を繰り返してきた、地続きで国境がある欧州諸国、ロシア、中国、そして植民地としてアメリカ大陸を統治し始めた米国とは発想が異なります。
「名こそ惜しけれ(なこそおしけれ)」という言葉はご存じでしょうか。
「自分の名誉や存在にかけて、恥ずかしい行動はできない」「名を汚すことが惜しい(命よりも名誉が大事だ)」という意味。
武士道として日本人ルーツとなり背景となる心の持ち方です。
「名」は自分自身の存在そのものであり、生きざまを映すもの。だからこそ、その名を汚してはならじ、その名において誇り高く生きるべし、と考えたのです。
もともと「名こそ惜しけれ」とは壇ノ浦の戦いを描いた「平家物語」の一節です。
恥ずかしい行いや卑怯な振舞いは自分自身を辱めるものである、鎌倉武士の精神が、その後の日本人の考え方・生き方の大きな礎となり今日に至っています。
この日本人の根源的な精神は、個≒Iよりも皆≒We大切にする、個人の欲求が我慢しても家族や皆のために尽くすことを優先する、言い換えれば国境を越えたグローバル発想ができるのが日本人と捉え直すことができると思います。
欧米視点で後れをとっていると卑下し、同じ土壌で張り合う必要はないと考えます。
(第一次世界大戦や第二次世界大戦の失敗から学ぶべきポイントでもあります。)
ただし国際標準に背を向けるのではなく、労働と人権、ハラスメントや腐敗防止などの倫理で、これまでの慣例を国政的プラットフォームの評価基準から客観的に見直し、改善すべき点を明確にして実行する、そして日本人の個性や文化を十分に活かしてビジネスを成長させるという、2つの姿勢が大切だと確信します。
実際、日本へ海外から訪問する方々からよく聞くよい評判が多数あります。
・おもてなしという言葉に代表される献身的なサービス、
・高価でも買い求める鋏や包丁などの丁寧で精密なモノづくり、
これは自動車産業を支える部品メーカーにも当てはまると思います。
・日本人の伝統的な食文化としてユネスコ(UNESCO)の無形文化遺産に登録された和食、 国土が南北に長く、海・山・里の豊かな自然があるため、地域ごとに多彩で新鮮な食材が使われ、素材そのものの味を活かす調理法が発達しています。
世界3大展示会のひとつIFAではパナソニックブースで和食を紹介する動画を披露、調理家電を使いながら、和食を作り味わってもらうデモを実施し、連日、大好評でした。
こちらは和食紹介の動画です。
https://www.youtube.com/watch?v=Gxpq13qamG4
国際標準に対応しつつ、日本固有のDNAを活かして、グローバル発想で取り組むこと、それが私たちの変わることのない道筋だと思っています。
私が所属しているブレインファームでは、「CDP&EcoVadis対応 サステナビリティ評価の実務ガイド」を2026年8月10日に出版しました。
本書は、国際標準のサステナビリティ評価として注目されるCDP・EcoVadisについて、制度の基礎から、回答準備、社内体制づくり、証明書類の整備、スコアアップの実務ポイントまでを体系的に解説する実務ガイドです。さらに、SSBJ基準をはじめとするサステナビリティ情報開示の流れも踏まえ、評価対応を単なる「回答作業」で終わらせず、企業価値向上やサステナビリティ経営につなげる視点を提示します。

