「分けあう」半分になるか、倍になるか?

コミュニケーション

私がACジャパンの東京制作部会の委員をしていた2011年、3.11の東日本震災後、すべてのCMがACジャパンのCMに変わり、ACに対して非難が集中していた頃のことです。
数種類のACジャパンのCMが一日中、繰り返しオンエアされていました。そのCMに対し「日本の力を信じてる」って関西弁で言われたくない。「あのタレントの親子の顔なんて、もう見たくない」「地層とか言っているけど、断層に見える」「SMAPの髪が長いのが気に食わない「エーシー♪」サウンドロゴがうるさい!」それこそ抗議の電話が鳴り続けていたのです。東日本大震災発生に伴うACの臨時CM集 https://youtu.be/VYuwb5ksuSk
あまりに非難が数多くのCMに寄せられたため、オンエアできる作品が激減し、急遽、新企画をACジャパンに参画する代理店各社に求めました。会合を開く時間的な余裕もないので、私にはメールでビデオコンテ等が発信され、意見を求められました。
「買いだめはやめよう!」を呼びかけるCM企画がありました。その頃、東京のコンビニ、スーパーには電池、懐中電灯、米、水などが棚に並ばなくなっていて、スーパー開店時には長蛇の列。でも店に入れば、「お一人様一本ずつでお願いします。」の張紙があり、買い物客は当たり前のよううに、一本ずつ買い求めていました。私はそのCM企画を否定しました。既に流通の現場はそうしているし、守らない人は見かけなかったのです。このCM企画をした人は真剣に考えたとは思いますが、スーパーとかに自ら出向いて列に並んだことがない人なんだな、とも思えました。
「被災地に個人の思いで物資を送るのはやめよう!なぜならガソリンも不足していいます。寸断された道路は渋滞が起きています」というCM企画も私は否定しました。ある一面では正しく聞こえることも、したり顔でACジャパンが大量にオンエアするのは避けるべき。しかも、ひとりひとり思いやりを高飛車に否定しかねないからです。
その過程でひとつだけ僕が制作を進行すべし、と思えた企画がありました。
「悲しみは、分け合うと半分になるね。喜びは、分け合うと倍になるね。」
わけあうと〜♪ という歌に変わって、後にオンエアされました。ACジャパン CM わけあううれしさ 2011年度全国キャンペーン https://youtu.be/Z5RtOxqXCpE しかし当初のコピーはなくなっていました。いい言葉と思っていて残念でしたが、何か災害などが起こるとその度に思い出します。
今、コロナ禍で本当にたくさんの方々が悲しみの中にいると思います。自分ではどうにも解決できない悲しみ、でも代わりにその悲しみを解決してあげることができない。そんな時、たぶん唯一できることは、悲しみを聞き、一緒に泣き、心を痛めることしかないのでは、と思います。もちろん心に秘めた悲しみを話す相手とは信頼関係がないとできないのですが、自分の心を開く準備をしておくことはできます。何かのきっかけで話し相手になれたとしたら、悲しみに寄り添い、その人が自ら悲しみを乗り越えて歩み始めるきっかけができるかもしれません。その後に、もし喜びが生まれたら、一緒に笑い、その喜びが倍になるかもしれません。どれも…かもしれないでしかないのですが、そう考えると毎日の辛い出来事も、ほんの少しだけ軽くなるように感じます。

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